モラル・倫理リスク RL-008

1.対象の概要(入門知識)

モラル・倫理リスクとは、法律違反に限らず、社会的規範や企業倫理、従業員の行動規範を逸脱することによって発生するリスクを指します。倫理観や社会的責任を軽視する行動は、組織に深刻なダメージを与え、信用失墜や事業継続危機につながります。

1-1.主な分類

    リスク・ロス内容
    不正・背任行為リスク RL-069横領、粉飾決算、贈収賄などの不正行為。
    ハラスメント・差別リスク RL-070セクハラ、パワハラ、マタハラ、人種差別など。
    内部告発・内部統制不備リスク RL-071内部告発や統制不備により不祥事が露呈。
    倫理観欠如による判断ミス RL-072公私混同や顧客軽視など、社会的非難を招く行為。
    CSR無視リスク RL-073環境・社会課題を軽視し、持続可能性や評判を損なう行為。

    1-2. 概要図

    中央に「モラル・倫理リスク」

    外周に放射状で分類(不正・背任/ハラスメント/内部統制不備/倫理観欠如/CSR無視)

    各分類から「信用失墜」「訴訟・制裁」「離職・人材流出」など矢印で被害に接続

    2.ケーススタディ

    Case2508-***

    ある食品メーカーでは、経営陣が利益至上主義を優先し、原材料の一部を基準以下の品質にすり替えて製造を続けていました。当初は内部の数名しか知らない「隠しごと」でしたが、良心の呵責に耐えられなくなった社員が内部告発を行い、問題が公になりました。

    報道を受けて顧客は不信感を抱き、SNS上で「安全より利益を優先する会社」と炎上。主要取引先からの契約解除も相次ぎ、売上は急落しました。さらに経営陣は背任行為で刑事責任を問われ、企業は廃業寸前に追い込まれました。

    この事例は、法律違反だけでなく「社会が許容しない行為」がいかに大きな経済的・社会的リスクにつながるかを示しています。

    3.主なプロセス(流れ)

    倫理観の欠如(利益優先・規範軽視)

    不正や不適切な行為の発生(ハラスメント・粉飾・隠蔽)

    内部統制やチェック体制の不備で問題が拡大

    内部告発や外部通報、メディアによる報道

    信用失墜・法的制裁・取引停止などが顕在化

    企業ブランドの毀損、業績悪化、人材流出へ

    4.トラブルや被害

    4-1. トラブルや被害(一次被害)

    横領や粉飾決算による資金流出

      ハラスメントによる職場環境の悪化・訴訟リスク

      内部統制の不備による不正放置

      4-2. トラブルや被害(二次被害)

      社会的信用の失墜による顧客離れ

      株価暴落・資金調達困難

      優秀な人材の離職・採用難

      行政処分・刑事罰の適用

      CSR軽視による消費者や投資家の不買・撤退

      5.要因(なぜ起きるのか?)

      組織文化の問題:利益至上主義や隠蔽体質、トップダウンによる圧力。

      内部統制の弱さ:監査体制や内部告発制度の不備。

      教育・啓発不足:倫理研修やコンプライアンス教育が形骸化。

      外部環境への鈍感さ:社会的責任やSDGsへの対応不足。

      リーダーシップの欠如:経営層のモラル低下や不適切な判断。